クリスマス、少年の目には涙が溢れ
※ポケモンSVのお話。※ネタバレはありません。
オレンジアカデミーのとある教室の休み時間。
「オレこんどサンタさんにパモのぬいぐるみおねがいするんだ!ペパー、おまえは?」
キラキラと目を輝かせ鼻息荒く、クラスメイトの男の子はペパーに訊ねた。
「……。
おまえまだサンタクロースしんじてんのか?あれほんとはおまえのとうちゃんとかあちゃんなんだぜ」
「えっ。ウソだよ!サンタさんいるもん!!うわあああああん!!!!」
ペパーの言葉に男の子はその階中に聞こえるような大きな声で泣きだしてしまった。
「ペパーくん」
担任の先生がかたく静かな声で呼んだ。
「ちょっとこちらへ来なさい」
「はい……」
※ ※ ※
あの後、先生から「本当の事でも相手の気持ちを考えて言わないようにした方がいい場合もあるから気を付けなさい」と注意された。
「でもさ……」
ペパーは寮の自室のベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「オレのきもちはどうでもいいちゃんなのか?オレのところにはすうねんまえからサンタクロース(とうちゃんかあちゃん)こないんだぜ」
ペパーが鼻をすする音を聞き、側にいたオラチフが顔を覗き込むと、ペパーの目からは涙が溢れていた。驚いたオラチフは、大好きな、小さくて可愛いご主人様の涙を止めようと必死に甜めた。
「オラチフ……」
その夜、ペパーはオラチフを抱きしめながら泣き疲れて眠りについた。
※ ※ ※
「休暇が欲しいだと!?この忙しい時に何寝ぼけた事を言っている!?」
雑然とした研究室にペパーの母、オーリム博士のイライラした声が響いた。オーリムの目の前に立っている、オーリムと同じく白衣を着た男性が恐縮しながら言った。
「すみません……。ですが、息子はまだ小さいですし、家族皆でクリスマスを過ごしたいのです」
「我々にそんな暇など存在しない。年明けの成果発表会で研究の成果を示せなければスポンサー契約を切られる。資金が絶たれればこの研究は続行出来ない。分かっているのか!?おまけに最近立て続けに人が辞めて人手不足なんだぞ」
「分かりました。無理ならいいです。辞めます。私はもうこれ以上あなたにはついていけません」
「な……ッ!?」
オーリムが止める間も無く男性は白衣を投げ捨て出て行ってしまった。
「ああ……これで今月何人目だ……?あと少しだというのにこれでは間に合わない……。」
力無く椅子に腰を下ろし頭に手をやる。
「何がクリスマスだ……。ん……?クリスマス……?息子……」
オーリムの目がホワイトボードの片隅に貼られた写真へ向けられた。
「……」
―願わくば、オーリムがペパーと一緒にクリスマスを過ごさん事を……。どうか、せめてプレゼントだけでも……。だが悲しいかな、彼女は恐らく……。
クリスマス、少年の目には涙が溢れ END