色々お話置き場

ドラクエ10、ゼルダ、ポケモン

デスマスターと死神の子

ご機嫌よう 名も知らぬ人
私は デスマスター
彷徨う魂を 在るべき場所へ 導く者
さあ あなたの未練を 私に聞かせてご覧

 ※ ※ ※

赤髪のデスマスター、アメリヤは冒険者から
依頼を受けトポルの村へやって来た。

トポルの村の近くの人喰い草の所に彷徨う
霊魂がいるので成仏させてあげて欲しい、と。

アメリヤがトポルの村を出、ガウシア樹海を
左に少し歩くとどっしりと鎮座する
人喰い草の中に白骨化した屍が
横たわっていた。

アメリヤはしゃがんで屍の頭蓋骨を膝にのせ
側に漂う霊魂に語りかけた。

「ご機嫌よう 名も知らぬ人
私は デスマスター
彷徨う魂を 在るべき場所へ 導く者
さあ あなたの未練を 私に聞かせてご覧」

霊魂は生きている人間に話しかけられ
戸惑いながらも返事をした。

「この私の話を聞いて下さるのですか?
……私にはとある書を処分するという重要な任務
がありました。とても頑丈な為普通の方法では
処分出来ず、魔術に精通している魔界の高名な
術師を訪ねて回っていました。
しかしある日賊に襲われ私は致命傷を負い
書も奪われてしまったのです。
あの書は存在してはならない大変
恐ろしいもの。
あの書を処分するまでは私はこの世界から
去る事が出来ません」

今まで数十の霊魂をあの世へ導いてきた
アメリヤだったが話を聞いて流石に尻込み
してしまった。

これは私の手に余る案件かもしれない。
本部に応援を頼もう。
アメリヤは使い魔に手紙を持たせて
デスマスター協会の本部へ送った。

「ああ、そういえばまだ名前すら申し上げて
ませんでしたね。失礼しました。私は
クルコス村のバーンと申します」

え……?クルコス村……?バーン……?

「マリナという妻がいたのですが
危険な任務の為、村に残してきたのです。
その事も気掛かりです。
もう10年以上経ってしまったでしょうか……」

マリナ……!?

ドクン、という大きな音が自分の体から
聞こえた気がした。

「父さん!?あなたは父さんですか!?」

「え?!いや、私には子どもはいませんよ」

「母さんは、父さんが心配しないように
身籠っている事を黙ったまま見送ったと
言っていました」

「まさかそんな!……でも確かに君の髪の色は
マリナと同じ赤色だ。眼鏡を、眼鏡を外して
くれないか?」

アメリヤはバーンの言葉に従い分厚い
瓶底眼鏡を外した。

「ああ!マリナだ!マリナと瓜二つの顔だ!
まさか本当に俺の娘なのか?!な、名前は
なんていうんだ」

アメリヤです」

「ああ……間違いない。俺達の子の名前だ。
旅立つ少し前にマリナに訊かれたんだ。
もし子どもが出来たらなんて名前に
したいかって。男女両方訊かれて。
俺は女の子ならアメリヤだと。これは俺と
マリナしか知らないはずだ」

「ではあなたは私の父さんなのですね。
今までずっと、探していました。出来る事なら
生きてる内に会いたかったですが……。でも
逢えて良かった」

「マリナは……、君のお母さんは元気かい?」

バーンのその質問にアメリヤは目を伏せた。

「母さんは……。数年前に亡くなりました」

「そう、か……」

「私はその日、デスマスターの修行で家に
いなかったのですが、何者かが家にいた
母さんを襲ったそうです……」

「なっ……」

「何も盗られた物は無く、犯人の目的は今も
不明なままです」

「くっ……まさか!?」

重い空気の2人のもとにオーガの青年が
駆け寄ってきた。

「おーいアメリヤ!どうした?何に
手こずってんだ?成績優秀のアメリヤさまに
しちゃ珍しいじゃねえか」

「あっ……」

「ん?この霊魂からは特に敵意も
感じられねえな。なんだまさか聖水を忘れた
とかそんな理由で応援呼んだのか?ほらよっ」

青年はバーンの霊魂へ聖水を振りかけた。

「うっ……ぐっ……」

バーンが苦しそうに呻く。

「待ってフーガ!!送らないで!この人は私の
父さんなの!!」

祈りの仕草をしようとするフーガを止める
アメリヤ。

「ハァ!?何言ってんだ!?父親だろーと
母親だろーとこの世に留まり続ける霊魂は
ほっときゃ悪霊になっちまうぜ!?知らねー訳
じゃねーよな?!」

「父さんにま、まだ訊きたい事があるの!」

アメリヤは鎌の刃をフーガの首もとに当てた。

「オイ!てめえ!自分が何やってんのか
分かってんのか!?霊魂送りの邪魔は
重大な規則違反だぞ!下手すりゃ証を
取り上げられ協会から追放されっぞ!」

アメリヤ!やめなさい!私ならもう
逝ってもいい!」

アメリヤは縦長の紫色の宝石のペンダントを
バーンに向かってかざした。
なんとバーンの霊魂はペンダントに
吸い込まれてしまった。

「死霊召喚!いでよ、ゴースト!」

アメリヤはゴーストを2匹召喚し攻撃対象を
フーガと指示するとルーラストーンで
その場から逃げ出した。

「待てよおいっ!クソッ!!この事は協会に
報告するからな!!」

※ ※ ※

トン、と音がしてアメリヤの靴底が地面に
着いた。
アメリヤの目の前には自宅の扉があった。
まだ心臓がバクバク音を立てている。
心臓の音で追手に居場所がばれるのではないか
と思うと余計激しく鳴ってしまいそうになる。
身をかがめて周囲に視線を走らせたが誰も
いないようだ。
逃げる先が思いつかなくて自宅にして
しまった。
自宅は間違いなく協会の追手が来るだろう。
必要な物だけ持って早くここを後に
しなければ。

アメリヤは大きく息を吸ってドアの取手を
引いた。
中に入りドアを閉め、明かりもつけずに
食料や衣類などを鞄に詰め込む。
荷づくりをしながら必死に何処へ逃げれば
いいか考える。

レンドアとか?港町で人の出入りが激しいから
新しく人が来ても町の人達そんなに気に
留めなさそう……。
それかグランゼドーラとか。
あれ程大きな町なら人が1人増えた所で
目立たなさそう。
よし、グランゼドーラにしよう。
行き先を決めてドアを開ける。

「おや、何処へ行くんだい」

「ひっ」

なんと師匠が家の前に立っていた。まさか
協会から連絡を受けて私を捕まえに来たのか?

「あんたが帰って来たかと思ったら電気も
つけずに家の中でゴソゴソやってるから、
もしや泥棒かと思って見に来たのさ」

アメリヤは師匠が追手ではないと分かり
ホッとした。

「でもなんだか様子が変だね。どうした
んだい」

アメリヤは事情を説明した。

「それは……。あんたのデスマスターの
師匠であるあたしは責任持ってあんたを
協会に突き出すべきなんだろうけど。
まあ父親と話す時間くらい与えてあげよう
じゃないか。それで、何処へ行こうとしてた
んだい」

「大きい町が良いかなと思って
グランゼドーラに」

「ふうん。それよりはグレン城下町の方が
人が多くて良いんじゃないのかい?
よし決めた。あんただけじゃすぐ
捕まっちまいそうだからあたしもついて
行ってやるよ」

「そんな!師匠を巻き込む訳には!」

「違う。あんたが変な事しないように見張る
だけさ。変な事しようとしたらすぐに協会に
突き出すからね」

「いや、でも」

「つべこべ言わない!ほら、早くしないと
追手が来ちまうよ!さあ早く!」

「は、はい師匠」

アメリヤと師匠はグレン城下町へ
ルーラストーンで飛んだ。

言われてみれば確かに、グレン城下町は
真っ直ぐ歩く事も出来ない程人で溢れていて、
隠れるにはうってつけかもしれない。
アメリヤは師匠に
「父さんの話を聞きたいんです」
と言って酒場へ向かった。

「あんたの父親は今何処にいるんだい」

「あの、この中に」

と言ってアメリヤはペンダントを師匠に
見せた。

「父さん、こちらの方は私のデスマスターの
師匠です」

ペンダントから男性の声がする。

「初めまして。アメリヤがお世話になった
ようで」

「初めましてバーンさん。アメリヤの師匠の
キルカだ」

「キルカさん……あの、厄介な事に巻き込んで
しまってすみません。今帰って頂いても全く
構いませんので」

「父さん、父さんの心残りでもある書の行方を
探しましょう。何か手掛かりは
ありませんか?」

「う〜ん……、襲われたのがトポルの村の近く
だったからあるとしたらやはり魔界
なんじゃないか。賊に扱える様なシロモノ
じゃないからきっとゼクレス辺りの魔術師に
売り付けたんじゃないかな」

「なるほど。ちなみに、その書は一体
どういうものなんです?」

「それを知ってしまったらもう後に引けなく
なるが、覚悟はいいか?」

アメリヤは頷き、キルカは「ああ」と
返事をした。
ふたりの反応を見てバーンは溜め息をついた。

「ああ……。俺はあの日、家族を
巻き込まない為に家を出たのに結局……。
分かった。少し長くなるが聞いてくれるか」

何から話そうか……。少し考えてからバーンは
話し始めた。

「俺は生前、デスマスターだった。ある日、
こんな噂を聞いた。
デスマスター協会の会長のアモンズが
命の書で死神の子を生き返らせ、人間を
滅ぼそうとしている』と」

「!?」

「こっそり会長室に忍び込んだ俺は、
その噂が事実だと確信し、会長室にあった
命の書を持ち出し処分しようとした。
だが何で出来ているのか書は燃やす事も
破く事も出来ず、有名な魔術師を転々と
していた所、賊に襲われてしまったんだ」

「そんな……」

「なるほどねえ。とんでもない話を
聞かされちまったね。
とりあえず、ゼクレスの金持ちの魔術師達に
あたってみようかね」

「ありがとうございます、師匠」

「それじゃお会計してさっさと向かおうか」

※ ※ ※

その頃、クルコス村のアメリヤの自宅では。

「チッ。もう出た後かそれとも自宅には
戻らねーつもりか」

アメリヤの違反を協会に報告した際、
同期である為他の者よりアメリヤに詳しい
だろうという理由でそのまま捕縛を
命じられたフーガが待ち伏せしていた。

「やれやれ、他を探すか。
父親連れてどこほっつき歩ってんだか」

※ ※ ※

キルカのアビスジュエルで2人はゼクレスに着いた。
デスマスターは魔界からの依頼も度々あるので
魔界に来る事自体には抵抗はないが、
それでもゼクレスは他と違いかなり排他的な
空気があり居心地の悪さを感じさせられる。
魔術士程ではないがデスマスターも一応
それなりの地位を認められているので
魔物や下等魔族よりはマシなのだろうが。

「ちょいと郵便局へ寄っても良いかい?
あんたを1人前のデスマスターに育てた後
また弟子をとっていてね。何も言わずに
出てきちまったから心配してるかもしれん。
便りを出しておきたい」

「それは申し訳ないです!すみません師匠!
あの、1人でも大丈夫ですから。お戻り
頂いても」

「もう後には引けないんじゃなかったかね?」

「あうう……。そうでしたね。では外で待って
ますので」

アメリヤが外で師匠を待っていると、
郵便局からとんでもない速さでドラキーマ
飛んでいった。

あれは師匠が出した便りだろうか?
特急の便り……?
本当にお帰り頂かないで平気なのだろうか。
戻って来た師匠にもう一度確認する。

「先程の特急の便りは師匠が出されたもの
ですか?お弟子さん、大丈夫ですか?
あの、私だけで何とかしますから。
気になさらずお帰り下さい」

「はっはっはっ。だーいじょうぶだよ!
心配性だねえ。特急の便りはあたしのじゃ
ないよ。あたしは弟子に数日分の課題を
言いつけただけさ。さぼったらすぐ分かる
ようなとびきり手間のかかるやつをね!」

「そ、そうですか」

そう言えば私も、師匠が用事で数日空ける時、
とんでもなくやっかいな課題を
出されたような……。

「さあて、どこから訪ねようか。賊と取引する
くらいだからキナ臭い奴にあたっていくかね。
いいかい、おどおどするんじゃないよ。
隙を見せないように。視線をそらすな」

「はい!」

「ついておいで」

そういうとキルカはゼクレス城に近い
立派な噴水のある貴族の豪邸へ向かった。
よそから来たふたりへ豪邸の周りでたむろ
す貴族らしき魔族達から冷ややかな視線を
そそがれる。
目が、言っている。
そこはお前らのようなみすぼらしいねずみが
近付いて良い場所じゃないぞと。
アメリヤは「師匠……」と声をかけたいのを
我慢した。

「ここ15、6年の間に妖しげな書を賊から
購入していないか?」

キルカは豪邸の前にいる従者と思われる魔族に
単刀直入に訊ねた。

「……どちら様ですか?」

デスマスター協会の者だ。とある危険な
書物を探している」

デスマスターの証を見せながらキルカは
答えた。

「私の知る限り無いですね。リンベリィ様は
宝石や絵画にしか興味がありませんし。それに
高貴なお方ですから賊から購入なさるなんて
考えられません」

「なるほど。ご協力感謝する」

キルカは次に、そこから少し歩いて町の外れの
屋敷へ向かった。
明かりがついていないし雑草が伸び放題だし
しばらく誰も足を踏み入れていないようだ。

「人の気配がありませんね」

「そのようだ」

「中に入って書を探しますか?」

「いや、やめておこう。侵入者への
まじないが施されている。他をあたって
見つからなかったらまた来ればいい。
それにしても優等生のお前がそんな提案を
するとはね」

「はは。そうですね。でももう色々
やらかしてしまいましたから」

「そうか。さあ次行くよ。この2軒のどっちかに
ありゃあ良かったんだけどねえ。アメリヤ、
気を抜くんじゃないよ」

「はい」

キルカはまたゼクレスの城門近くの貴族の
屋敷が建ち並ぶ通りへやって来た。
屋敷のトビラをノックする。

「どなた?」

女性の声。

デスマスター協会のキルカだ。とある危険な
書物を探している」

トビラが開かれた。

「中で話を聞きましょう。お入りなさい」

応接間に通され「どうぞおかけになって」と
促されソファに座る。

「わたくしはハドスペンと言います。
キルカさんのお探しの書とは?」

「15、6年前にトポルの村の近くで
デスマスターの男性が賊に襲われ亡くなった。
そしてその時男性が持っていた『命の書』が
盗まれた。
賊が売るとしたらトポルの村から近く
魔導国であるゼクレスの貴族だろうと思い、
ここを訪ねたという訳さ」

「なるほど〜。うちにありますよ、命の書」

「本当かい」

「欲しいんです?」

「ああ」

「3000万Gでどうでしょう」

「なんだって!?盗まれたもんだぞ!?
正当な持ち主に返すべきだろう!?」

「ええ。でしたら1割引きで
2700万Gでいかがでしょう。
わたくし、ゴールドをお支払いして
購入致しましたの。ですからあなた方も
それと同等のゴールドをわたくしに
お支払いして下さいません?」

「いくらなんでも高過ぎる!」

「ならお帰り下さい。あなた方に買って
頂かなくてもわたくしは何も損しませんもの。
貴族ってね、パーティだドレスだ食事だお酒だ
ってとっても沢山ゴールドが必要
なんですのよ。タダで貰おうなんてやっぱり
平民はいやしいのね」

「何を言っても無駄なようだね。いでよ
がいこつ!」

キルカはがいこつの攻撃対象をハドスペンに
設定した。

「きゃあ!ちょっと!人の家で何をするのよ!
あなたなんかデスマスター協会に言いつけて……
あああ、やめてやめて!誰か!助けて!
ひっ……うっ……」

アメリヤ!今の内に書を探すよ!」

「はい!父さん、命の書の見た目を教えて
下さい!」

「血のように赤くてレンガのように分厚い。
文字は血文字だ」

「この部屋には無さそうだね」

「いでよゴースト!命の書を探して!」

アメリヤに召喚されたゴースト2匹は壁や天井を
すり抜けて2階へ消えた。

アメリヤ!やるじゃないか!」

「奥様ッ!?どうしました!?」

応接間のドアノブを従者がガチャガチャと
激しく鳴らす。
ハドスペンが鍵をかけていたので開かない
ようだ。

「師匠!マズイです!ドアの前に数人いそう
です!」

「開いたら外に向かって走るよ!」

「はい!」

「開けるよ!せーの」

突然ドアが開きバランスを崩して尻餅をつく
従者。
別の従者はドアに顔面を強打したり。
キルカとアメリヤはその隙をついて屋敷の
外へ。

「このまま裏通りまで走るよ!」

「はい!」

従者達は2人のあとを追って来ないようだった。
ハドスペンがまだがいこつ達に襲われている
から助けようとしているのかもしれない。

「あとはあんたのゴースト達が命の書を
見つけて持って来てくれるといいんだけど」

「……ですね。はあ、はあ……師匠、全然息切れて
ないじゃないですか」

「そりゃあんたとは鍛え方が違うからね」

「はあ、はあ、流石師匠……。あ、ゴースト、
来ました」

アメリヤはゴーストから命の書を受け取った。

「これが命の書……?父さん、間違いない
ですか?」

「ああ、間違いない。あ」

「どうしました父さん?……あ、やばいです
師匠!あそこにいるオーガ、私の追手
なんです!」

「そうかい」

デスマスター協会のアメリヤと同期のオーガの
青年、フーガがこちらに向かって真っ直ぐ
歩いてくる。
キルカはアメリヤが首から下げている、
アメリヤの父の霊魂が入ったペンダントを
握りしめた。

「師匠!?逃げましょう!!あの、あの……?え?」

「やーーーっと見つけたぜ、アメリヤ。
さあ、大人しくデスマスター協会戻んぞ」

キルカにペンダントを握られていては
ルーラストーンも使えない。

「師匠!手を離して下さい!」

「正当な持ち主に返すべきだろう?」

「え……?それはどういう」

「すまない」

キルカはアビスジュエルを掲げた。

 ※ ※ ※

キルカのアビスジュエルによってアメリヤと
フーガも魔界を出、アストルティアにある
デスマスター協会の前にいた。

「キルカさんが特急のドラキーマで教えて
くれたお陰でアメリヤを捕まえられました。
ありがとうございます」

「!?」

「礼はいい。あたしは会長に命の書を渡しに
行く。アメリヤを任せていいかい?」

「俺もアメリヤを捕まえた報告を会長に
しなきゃっす」

「なら一緒に行くか。フーガ、ネックレスを
離すな。アメリヤは父親を置いては逃げない
だろう。ネックレスを掴んでおけば大丈夫だ」

「了解っす」

デスマスター協会の建物の中に入り階段を
のぼり3人は会長室の前についた。
キルカが会長室のドアをノックする。

「誰かな」

中から会長のアモンズの声がする。

「キルカとフーガだ。命の書を持って来た。
アメリヤもいる」

「入りなさい」

会長室の壁は埃っぽい本が詰まった棚で
覆われていた。部屋の奥に高級そうな
書き物机と革張りの椅子。手前にソファ2つと
テーブルがある。

「フーガよ。違反者アメリヤをよく連れて
来てくれたな。御苦労だった。今日は
ゆっくり休んで明日から通常の任務に
戻りなさい。下がって良いぞ」

「はい。あ、あの、離して良いんすか?
コイツ、逃げないっすか?」

「キルカより話は聞いている。この状況なら
逃げまい」

「はい!失礼しました!」

フーガが部屋を出ていく。

「さあ、書を」

アモンズはキルカから命の書を受け取ると、
表紙と裏表紙をじっくり眺め、ぱらぱらと
ページをめくり中身を確認した。

「ふは、ふはははははっ!分かる、理解
出来るぞっ!書が奪われてからも研究を
続けていた甲斐があった。今の私になら
蘇らせられるっ!」

「本当か!?それじゃ約束通りあたしの
息子も生き返してくれるんだろう!?」

「くくくくく……。くくく……。
はっはっはっはっは。キルカよ、
御苦労だったなぁ!よく書を取り戻して
くれた!だがな、命の書で蘇らせられるのは
死神の子だけだ」

「騙しやがったね!命の書を持って来れば
息子に、アドニスにまた会わせてやるって
言ったじゃないか!」

「はははは!それはな、死神の子が人間を
滅ぼしお前も天国に送ってやるから息子に
会えるって意味さ!」

「この人でなしが!あたしがあんたを地獄に
送ってやるよ!」

「会長である私にお前がかなうかな?」

「やってみなきゃ分からないだろ!?」

キルカはアモンズに向かって飛びかかり
鎌を振り上げた。
アモンズは笑みを浮かべている。

「魂狩り!」

「ハデスの宴」

「ぐあッ……!」

アモンズの闇攻撃でキルカは吹っ飛んだ。

「師匠!」

「くそっ!いでよがいこつ!」

「ふふっ。冥王のかま」

グワシャアッ!

「グ、アァァア……」

「なっ!?」

なんと、アモンズはキルカの召喚した
がいこつを一撃で倒してしまった。

「そんな」

マヒャデドス!」

大きな氷柱がキルカに降り注ぐ。

「がはっ」

「師匠っ!!」

まさか、師匠ほどのデスマスターがまるで
歯が立たないとは。
アメリヤはキルカに駆け寄った。

「師匠!師匠!」

「があっはっはっはっ。もう終わりか。
つまらん」

「師匠!」

「アメ……リヤ、すま…かった」

「師匠、良いですよもう」

アドニス…また……会える…言わ…て」

「師匠、後で聞きますから、今は……」

「どう……も……会いた…った」

「師匠!デスマスターなんだから
死なないで下さいよ!お願いします」

「……」

「嘘だよ、こんな……」

「……」

アメリヤ、父さんを召喚してくれないか」

「父さん?」

サクリファイスしてくれ。あいつを倒す」

「そんな事」

「あいつを止めるんだ。頼む。アモンズは
死神の子を蘇らせて人間を滅ぼそうと
している」

アモンズは命の書を片手に魔法陣を描いて
いる。恐らく蘇生の準備をしているのだろう。

「嫌」

「お前を守りたい。父さんはもう死んで
いるんだ。これで良いんだ」

「良くない」

「霊魂が地上に長居すると悪霊になる。
お前もデスマスターなんだから分かるだろう?
父さんもそろそろ限界だ。なあ、アメリヤ」

「う……あああああっ」

「こんな事させてごめんな。お前に会えて
嬉しかったぞ。ありがとう」

「死霊召喚!サクリファイス!」

アメリヤはバーンを召喚使役し、爆発を
命じた。

「ふ……悪あがきか。無駄な事よ。いでよ
よろいのきし!死霊の守り!」

バーンのサクリファイス。魂を糧にした
大爆発が起こる。
しかしアモンズはよろいのきしに
ガードされてほとんど無傷だった。

「あぁ」

アメリヤはその場に座り込んだ。
もう立っている気力が無かった。

「ふふはははは。大人しくそこで死神の子が
蘇る様を見ているがいい。
お前では私に勝てない。それが賢い判断だ」

「どう、して人間を滅ぼそうとするの」

デスマスターにとって死者の国が
どれだけ素晴らしい事か分からんのか?
全員、この私の言う事を聞くだろう」

「あなたの家族とか大事な人も、あなた自身も
死んでしまうんでしょう?それでもいいの?」

「はっはっは。私は未練など無いぞ。
人間を滅ぼせるのならな。
人間はこの世で最も醜く愚かな生き物だ。
家族や大事な人だと?おらんよ。
とっくの昔に人間に殺されたんだからな」

「全ての人間があなたの家族を殺した訳じゃ
ないでしょ?」

「ふん。人間は皆同罪だ。
私の家族や大事な人は、60年前のある日、
洪水で死んだんだ」

「人間のせいじゃないじゃない」

「はっ。洪水が起こるのは人間のせいさ。
欲深い人間が木を切り大地や海や空を汚すから
起きるんだ」

「レンジャーが木を植えて森を育て自然を
守ってる。良い人間もいる」

「欲深い人間を止める事が出来ないなら
同罪だ。レンジャー達がいくらあいつらに
言っても聞きゃあしない。聞かないなら
消してしまった方が早いだろう?」

「でも、全員滅ぼすなんておかしい。
皆頑張って生きてる。醜くても愚かでも必死で
生きてる」

「この星にとって人間なんか生きてるだけで
迷惑だ」

「誰にも迷惑かけずに生きるなんて無理よ」

「手遅れになってもいいのか」

「運命だと思って受け入れる」

「どこまでも自己中だな!」

「自己中で良いじゃない。それが生きるって
事よ」

「自分さえ良ければ他人はどうなっても
いいのか」

「誰かがすごく不幸だったらそれはいずれ
自分にも回ってくると思う。
まさに今のようにね!だからその人が
自分の手に届く場所にいるなら助ける」

「やはりどこまでも自分、自分、
自分第一じゃないか!愚か愚か愚か!
滅びてしまえ!」

「だって自分の事を幸せに出来るのは自分
でしょ。
皆自分で自分の事を幸せにすればいい」

「それなら他人なんかいらなくて自分1人
いればいいのか?」

「1人では生きていけないし寂しいわよ。
その服は誰が縫ったの?デザインは誰が?
誰が運んで誰が店に並べたの?材料は誰が
用意したの?この建物は誰が建てたの?
このソファは誰が作ったの?テーブルは?
この本は誰が書いたの?誰が印刷したの?」

「他人が必要というならなぜ私の家族や
大事な人は命を奪われたのだ?」

「今のあなたのように、他人の価値や尊さを
理解しようとせず、不要な物として扱った
んじゃない?」

「今の私、だと?あいつらと私が同じ?
ふざけるな!もういい!
どうせ死神の子が蘇ればお前だって
人間の汚さを見せつけられて嫌になるだろう。
死神の子が自害すると全ての人間が滅ぶ。
その呪いを知った人間は、死神の子が
自害する前に自分達の手で殺そうとする
だろう。誰からも命を狙われる世界で
死神の子が生きる事を諦めないと思うか?」

「それなら私が死神の子を護る」

「はははは。言うだけなら簡単だな。
お前が絶望する時を地獄から見ててやる。
さあ、時は満ちた。
死神の子、アウグステスよ!我が命を捧ぐ。
蘇りたまえ、現世に。
そして愚かな人間どもを滅ぼしたまえ!」

空が暗くなり雷鳴が轟きだした。
部屋が一瞬真っ白になった。
ドガゴォン、と背筋がふるいあがる、
耳が割れるような音がした。
同時にゴンゴンゴンと地面が揺れた。
アメリヤが目を開けると、アモンズが
炎に包まれていた。

「ぅあ、ああああああッ」

アモンズは真っ黒になった手と足をばたつかせ
倒れた。
アメリヤはあまりの恐ろしさに壁に
背がつくまで後退りした。
鼻に人間の髪や肉の焼けた臭いが
纏わりついた。

「ひっ、や、うう、ああぅ」

手足がぶるぶる震え、涙が止まらない。
涙で床に大きな水溜りが出来た頃、
ようやく火が消え、人型の黒い塊が残った。
どこからかびゅうっと風が吹き、
黒い塊からすすが舞い上がった。
いや違う。
人型が起き上がりすすが剥がれ落ちていく。
そして

「初めまして。僕は死神の子、アウグステス。君は?」

白髪赤眼の少年がアメリヤの前に立って
いた。