ポケモンスリープ「ぼくのだいすきなみっちゃんとみっちゃんの可愛いニャース」
「ZZZ……ZZZ……」
カビゴンの大きなお腹が気持ち良さそうに上下している。そんなカビゴンに眠気を誘われて側でニャースが眠っていた。
パシャッ!という音と共に一瞬辺りが眩しく光る。
ニャースはびっくりして飛び起きた。
「起こしちゃってごめんね。可愛かったから写真撮っちゃった」
ニャースの目の前には人間の小さい女の子がいた。10歳くらいだろうか。手元の赤い小さな板状の物を見つめている。
「あなた、ニャースっていうのね。私はみっちゃん。よろしくね」
そういうとみっちゃんはニャースにモンスターボールがアイシングで描かれているビスケットを渡した。
ニャースは初めて見るビスケットをすんすんすんと鼻で嗅いでから口にしてみた。
ザクザク。ボリボリ。にゃんだかわからにゃいがおいしいにゃ。
「美味しい?もっといる?ほら」
ニャースはみっちゃんから渡されたビスケットを全部平らげた。
「うちの子になったらもっと美味しいもの毎日食べられるよ。一緒に来る?」
みっちゃんは笑顔で言った。
「ごろなァん」
ニャースはみっちゃんの足にすりすりした。
「決まりね!」
実はみっちゃんにとってニャースが初めて仲間になったポケモンだった。
「こんな可愛い子がお友達になってくれて嬉しいな!」
それからというもの、みっちゃんはニャースをどこへ行くにも一緒に連れて行った。他にも新しく仲間のポケモンは増えていったがみっちゃんは初めて仲間になってくれたニャースをとても可愛いがった。ニャースも大好きなみっちゃんの為に一生懸命きのみや食材を集めてお手伝いをした。
ポケモンに人間の言葉がどれほど理解出来ているのかは分からなかったけれど、みっちゃんはニャースにおうちの家族の話や学校の話を沢山した。
「今日のお洋服ね、算数のテストが良い点だったからママがご褒美に買ってくれたの!」
「にゃ〜」
「昨日ね、パパがお疲れ様だったから肩たたきしてあげたらパパね、『みっちゃんは肩たたきの天才だね!』って褒めてくれたの!今度ニャースにもやってあげるね!」
「みゃおう」
「あのね、みっちゃん、好きな人いるの!よし君っていうの。ニャース、内緒だよ!」
「にゃにゃ!」
「ニャースはニンジン食べられる?みっちゃん食べられないの。だからこの間残したやつ庭に埋めちゃった」
「なーうー」
ニャースは算数とかテストとかよく分からなかったけれど、楽しそうに話すみっちゃんを見ていると自分も楽しい気持ちになった。
「ニャース、いつも沢山お手伝いしてくれてありがとね。ニャースはみっちゃんの可愛いニャース!大好き!」
「にゃ!にゃにゃ!」
ぼくはみっちゃんのかわいいニャース!ぼくもみっちゃんだいすきだにゃ!
そんなある日の事。いつものように寝顔図鑑集めを頑張るみっちゃんのお手伝いをニャースがしていた時の事。
「おい、みずきじゃん。みずきも寝顔図鑑集めやってんの?」
「よ、よし君!そ、そうだよ」
みずき、と呼んできた同い年くらいの男の子にみっちゃんがうわずった声で返事をした。
みっちゃんにはいろいろにゃまえがあるのかにゃ?……よしくんってどこかできいたきがするにゃ。
「オレもやってる!みずきはどれくらい集めた?」
「始めたばかりだよ。まだ全然」
「そうなん?見てよオレのカメックス。食材集めが得意で性格が冷静だから食材お手伝い確率が高くておまけに金スキルで食材確率アップがついてんだぜ!最強だろ!?」
「ごめん性格とか金スキル?とか初めて知った。えっと、すごいねよし君」
「なあんだ分かんねえのかよ。じゃあオレが見てやるよ。みずきが連れてんのはニャースか。ええとこいつは……。え!スキルが得意なのに性格が無邪気でスキル確率ダウンじゃん。金スキル1個も持ってないし。クソださ。カスじゃん役立たずだよこいつ。早く博士に送っちゃえよ」
「えっ……」
「しかも手持ちで一番こいつがレベル高いの?飴とゆめのかけらの無駄遣いだな。みずき、もっとポケモンの事調べた方がいいぜ?じゃあな」
「……」
いちどにいっぱいいわれておいつけなかったけど、ぼくのことはにゃしてたにゃ?
みっちゃんの背中が震えていた。
「にゃーん」
どうしたにゃ?ニャースはみっちゃんの手をなめた。
「触らないで」
みっちゃんはなめられた手をバッと払い除けた。
「ニャースのせいで、よし君にダサいって言われた!ニャースなんかどっか行って!」
にゃ!?にゃ!?にゃ!?
「どっか行け!!」
動かないニャースにみっちゃんは石を投げて叫んだ。
石はニャースの右目の上に当たった。傷から血が流れたが痛みは感じなかった。あまりにも胸が苦しかったから。
「あっ……」
みっちゃんは取り返しのつかない事をしてしまったと気付いたけれど、ニャースはもう背を向けて走り去ってしまった。
※ ※ ※
「ハッ、ハッ、ハッ、」
ガッ。ベシャッ。ニャースはつまずいて地面に突っ伏した。もう先程の傷が分からなくなるくらい体中が傷だらけになった。
ニャースはスンと鼻を鳴らした。
むずかしくてわからなかったけど、ぼくがだめだから、みっちゃんはみっちゃんのすきなひと、よしくんからみっちゃんはだめだっていわれてしまったにゃ。だからきっとみっちゃんはぼくともういっしょにいたくにゃいのにゃ……。でもぼく、またみっちゃんのかわいいニャースにもどりたいにゃ。
いつもならもうみっちゃんと一緒に眠っている頃だ。しかし帰る場所を失ったニャースは森へ向かった……。
※ ※ ※
みっちゃんはポケモンについて猛勉強を始めた。ポケモンの得意な物、性格、スキル、カビゴンの好きなきのみ……。
手持ちのポケモンも今までみたいに見た目の可愛さとかで決めないでカビゴンの好きなきのみや料理に合わせて組むようにした。
……でも、なんか、つまんないな……。
「わあ、あなたのカビゴン、とっても成長早いですね。何か特別な事してるんですか?」
ある日、通りすがりの人に訊かれた。
「今週のカビゴンに合わせてベストのメンバーを揃えてるの」
「そうなんですか」
通りすがりの人は呟いた。
「……それだけにしては早過ぎる」
「え?」
※ ※ ※
ニャースは寝る間を惜しんできのみを集めていた。
みっちゃんのかわいいニャースにもどりたかったらすごいニャースににゃるしかにゃいにゃ。
ニャースは沢山きのみを集めたが、今週のカビゴンの好きなきのみはオレンのみで、ニャースの集めたキーのみではなかった。
ぼくはたかいところによくあるキーのみをあつめるのはとくいだけど、およげにゃいからみずべによくあるオレンのみをあつめるのはにがてだにゃ。でも……そんにゃこといってるばあいじゃにゃいにゃ。
ニャースは崖に登りオレンのみを探した。オレンのみは川の中州の木になっていた。ニャースはごくりとつばを飲んだ。
だいじょうぶ、かわはあさいしにゃがれもゆるやかにゃ。
意を決してニャースは川へ足を踏み出した。冷たくてびっくりして足を戻す。
だめにゃ!いくのにゃ!
なんとか中州に辿り着いて木になったオレンのみを採り、来た道を戻る。だが先程とは違いオレンのみの分体が重くなり川の中でバランスを崩した。浅めの川ではあったが元々水に慣れていないニャースだ、パニックになってしまっては水の中では上と下も分からなくなる。ニャースは溺れてしまった。
くるし……いにゃ。ああ、もうだめだにゃ。みっちゃんのかわいいニャースにももどれにゃいし、これで、おわりだにゃ。かみさま、どうかこんどうまれかわるときにはみっちゃんのかわいいニャースでいられるようにゃすごいニャースに……してくだ……。
ニャースの意識が薄れていく。
「おい大丈夫か!?」
気が付くと川辺に横たわっていた。
「ニャースのくせに何やってるんだ!?ニャースが泳げる訳ないだろう!」
「こん、しゅうのカビゴンは、オレンのみが、すき、だから……」
「そんなの他の奴に任せれば良いだろう!ん?お前はよし様の同級生のみずきとかいう奴のニャースか?」
「?」
「俺はあの時よし様といたカメックスだ。お前、博士送りにならなかったのか」
「すて……られ、た、にゃ」
「そうか……。すまない。よし様のせいで……。よし様は向上心が強くご自身に厳しいのだが、他人にもそれを強要してしまう悪い癖があってな……。きっとよし様もいつか気付いてくれるはずだ、もっと大切なものに。お前は充分すごいニャースだよ」
ニャースは弱々しく首を横に振った。
「よし様には俺から言っておく。お前もっと自分を大事にしろよ。例えどんなに大切なご主人様がいてもそんなボロボロの体じゃ何も出来ないぞ。分かったか?それじゃあまたな」
カメックスは持っていたモーモーミルクをニャースの前に置くと川へ戻って行った。
ニャースはそのまま泥のように眠り、寝起きにカメックスがくれたモーモーミルクを飲み、みっちゃんのテントへ向かった。集めたキーのみとオレンのみをこっそりカビゴンの側の木箱に入れる。
「……ニャース」
掛けられた声に飛び上がる。何故ならみっちゃんの声だったからだ。
また、いしにゃげられるかもしれにゃいにゃ……。
怯えるニャースの体はふわりと抱え上げられた。
「ごめんね。どっか行けって言ってごめんね。石投げてごめんね。追い出されてからもお手伝いしてくれてたんでしょ?気付かなくてごめんね」
「にゃぁ」
「ごめんね……。ニャースはみっちゃんの可愛いニャースだよ……」
「ぷにゃぁー」
ニャースはみっちゃんの腕の中で目を閉じた。
「おい、みずき」
「よし君?」
よし君とカメックスがいた。
「みずきのニャース、すごいんだってな。みずきの為に川渡ってオレンのみ集めたんだってよ。みずき、お前すごいよ!ポケモンが主の為にそこまでするなんて、お前にはポケモンと仲良くなれるすごい才能があるんじゃねえのか!?」
「ニャースが川を!?」
「この前は勝手な事言って悪かった。そのニャース、大事にしてやれよ。みずきみたいなすごい奴にはポケモンの生まれつきのステータスなんか関係なく活躍させられるんだな。そんじゃ、お互いこれからも頑張ろうぜ!またな!」
「う、うん。またね!」
カメックスはお辞儀をするとよし君の後ろへ急いで戻って行った。
「ニャース……戻って来てくれてありがとう」
「ゴロゴロゴロ……」
ニャースは喉を鳴らした。
○おしまい○