プク姫のお話
※ドラゴンクエストXのお話。
※ネタバレはありません。
「そうかそうか、プク姫はヤスラムの事が好きなんだね」
「そうなの〜!ヤスラムさんっていつもヴィスタリア姫の側に控えてるじゃない?あの自己主張しないけどいざとなればすぐ駆けつけてくれそうな感じが素敵だわ〜!」
「女の子は皆、ヤスラムみたいな男性が好きなのかな」
「人の好みにもよると思うけどね〜。ああでも、ヤスラムさんとカミルが付き合ってるっていう噂があるのよね〜」
「えっ!?」
「カミルに訊いたら違うって言ってたけど、彼女シャイだから、恥ずかしがって否定したのかもしれないし」
「……」
「私がヤスラムさん見ると、大体カミルの事見つめてるしね。すっごい真剣な目で。あーあ、悲しいけどでもその眼差しもまたキリッとしてて格好良いのよね〜。あ、アルヴァン、今話した事は全部秘密だからね!誰にも言わないで!じゃ」
プク姫はひらりとベンチから跳び降りると駆けてどこかへ行ってしまった。
ひとり残されたアルヴァンは苦しそうな顔で胸を押さえていた。
※ ※ ※
数日後。
グランゼドーラ城の門の前でプク姫が待ち伏せ……、いや、たまたま通りかかると、王様に魔物討伐の報告を終えたカミルとヤスラムに会った。
「カミル!ヤスラムさん!魔物討伐と報告お疲れ様!ここのところ毎日ね。怪我は無い?大丈夫?」
「私は大丈夫です。でもアルヴァンが私を庇って怪我を……」
「あら本当!?それは大変ね!後でお見舞いに行かなくちゃ。カミルも疲れが溜まってるだろうからよく休んでね」
「ありがとうございます、プク姫さん。それじゃまた」
「うん。あ、ちょっと待って!あの、私、ヤスラムさんに話したい事があるんです!」
「え!?私にですか?」
「ヤスラム殿と?」
「ですが私はカミル様に……」
「いえ、大丈夫です。討伐で疲れましたしまた今度にします。それでは」
そう言うとカミルは足早に去ってしまった。
「立ち話もなんだから酒場にでも行きませんか?」
プク姫はぐいっとヤスラムの腕を引いた。
「ええ?は、はあ」
※ ※ ※
「いらっしゃいませ〜。お好きなお席どうぞ〜」
グランゼドーラの城下町の酒場に着いたふたりは奥の方の席に座った。まだ早い時間なので店内はガラガラだ。
「それで私に一体何のお話が?」
きゃ〜!ヤスラムさんてば!もう訊いちゃうわけ!?きゃー!!きゃー!!
「あ、あの……!」
もじもじするプク姫みて不思議そうな顔をするヤスラム。
「あの、私、ヤスラムさんの事が好きなんです……!」
「は、はいい!?」
鳩が豆鉄砲をくらった時のような顔になるヤスラム。
「でも……皆がヤスラムさんはカミルと付き合ってるって……。あの……、ほ、本当ですか?」
それを聞き、ヤスラムはほんの一瞬、獲物を目の前にした蛇のような顔で笑った。が、すぐに残念そうな表情を作り言った。
「本当です」
「そう、ですか」
「ですが……」
とヤスラムはプク姫の耳元に口を寄せた。
「私はカミルとの関係を終わりにしたいのですが、彼女がなかなか聞き入れてくれなくて困っているのです。もし良かったらプク姫さんのお手をお借り出来ませんか?実は私も前々からプク姫さんの事が気になっていたんです」
「ええ!?そんな、本当ですか!?な、何をすればいいんですか?」
「プク姫さんほどの力があればカンタンな事です。カミルを……始末して欲しいのです」
「え……?は……?ええ……?始末?え?始末ってまさか……」
「ええ。この世からカミルという存在を消して欲しいのです。プク姫さんと私が恋人になる為にはカミルが邪魔です。カミルがいなくなればプク姫さんと私は晴れて恋人同士になれます」
「……分かりました。ぶっ飛ばします。アンタをねッ!!」
「え」
「私の恋心を、返せーッ!!」
驚くヤスラムにプク姫の正拳突き!
ヤスラムは遠く遠く、果てしなく遠く飛ばされお空の星になったそうな。
※ ※ ※
「てな事があってさー!ほんっと最悪だったんだけどー!!」
グランゼドーラ城下町の酒場。プク姫がいつものようにフレンド達とわいわい言い合っていた。彼女はいつも皆の中心で、明るく元気で騒がしい。
オーガの俺は、ウェディみたいに格好良くないし、ドワーフみたいに面白い事も言えないし、エルフみたいに頭も良くない。力任せに武器を振り回す事しか出来ない。だから彼女と同じ空間にはいるけれど、話しかけたりなんか出来ない。いつも、こうやって遠くから見てるだけ。近くにいるのに近付けない、そんな感じ。きっと、彼女は俺の事、名前すら覚えてくれてないかもしれない。
先ほど、彼女が好きな人の話を始めた時は聞きたくなくて、こっそり帰ってしまおうかと思ったけど、最後は笑い話で終わったのでホッと胸をなでおろした。
いい時間になり、会がお開きになって皆が帰り始める。ほとんど人がいなくなって俺も帰ろうと思って帰り際に彼女を見たら。彼女の頬が濡れて光っていたんだ。まさかと思って彼女に駆け寄ると、彼女は泣いていた。
笑いながら話していたけど、本当は苦しかったのか?悲しかったのか?辛かったのか?
気が付いたら俺は彼女を抱きしめていた。
「……ジドガ?」
彼女は驚いた声で言った。
俺は彼女が俺の名前を呼んでくれたという事にさえ気付かず言った。
「泣きたいなら泣けよ。無理矢理笑うな。自分の本当の気持ちを無視してるとその内自分を見失うぞ。もっと素直になれ」
そう言ったら彼女はこどもみたいに大声で泣きじゃくった。
俺は彼女が泣き疲れるまでずっと抱きしめていた。夜の静かな暗闇が俺達を優しく包んで見守っていた。